
市街化調整区域とは
「市街化」とは建物を建てて街づくりを推進していくことをいいますが、「市街化調整区域」とは都市計画法によって街づくりを抑え市街化を抑制していく地域のことです。
つまり市街化調整区域では、原則として新たに建物を建てることができません。
市街化調整区域が設けられた理由は、乱開発を防止することで農地の減少を防ぎ、同時に市街化区域(=街づくりを積極的に行う地域)をコンパクトシティ化させることで、街の管理をしやすくし、自治体の運営費増加を防ぐためです。
市街化調整区域は、主に全国の政令指定都市や県庁所在地、中核都市など比較的大きな自治体の都市近郊にある農村地帯にされています。
市街化調整区域内にある物件の5つのデメリット
1.インフラ環境が整っていない
市街化調整区域は、そもそも一般の人が多く住むことを想定した地域ではありません。
そのため、あるのが当たり前と思われがちな上下水道や都市ガスなどのインフラ環境が整っていないことが多いです。
上水道が整備されておらず、井戸を使用している
下水道が整備されておらず、浄化槽や汲み取り式便槽を使用している
都市ガスが整備されておらず、プロパンガスを使用している
個人でそれらのインフラを整えるのは容易ではありません。
2.生活利便性が悪い
市街化調整区域は主に農村地帯であることが多く、また、建物を建てることができない地域のため、日常生活に必要な商業施設も原則として建てられません。
コンビニやスーパー
学校や病院
駅や娯楽施設
これらのような施設が近くにないという場合が多く、それらの施設を利用したい場合、離れた場所まで出かけて行く必要があり、生活の利便性が悪いと感じる可能性があります。
3.地目が農地になっている場合、手続きが面倒
市街化調整区域は主に農村地帯であることが多く、まれに地目が「宅地」ではなく「畑」などの農地のまま、家が建っていることがあります。
農地に家を建てるには、農地を宅地に変更する「農地転用許可」の手続きが必要です。
地目が農地のままですでに家が建っている場合、その農地転用許可を受けたものの、その後に「地目変更登記申請」を怠っている可能性があります。
このケースでは、まず農業委員会へ「現況証明願」の手続きをしたうえで、土地家屋調査士へ地目変更登記申請の依頼をする必要があり、手間と費用がかかります。
なお、かなり稀なケースだと思いますが、農地転用許可の履歴がない場合は、違法建築物件※の可能性がありますので、ご注意下さい。
※違法建築物件については、【「違法建築物件」を売却する方法】の記事で説明しています。
4.住宅ローンを利用できない可能性がある
市街化調整区域の物件については、原則として新たに建物を建てることができないため、金融機関から資産価値が低いと判断され担保評価が低くなり、購入時に住宅ローンを利用できない可能性があります。
ただし住宅を再建築できる条件を満たしていれば、住宅ローンを利用できる場合があります。
5.更地にしてしまうと再建築ができない場合がある
市街化調整区域の物件については、原則として新たに建物を建てることができないため、築年数が古い物件も多く、雨漏り被害※やシロアリの被害※などの「物理的瑕疵」がある可能性も高くなります。
それらの瑕疵があることを売主が買主に告知せず売却した場合、「契約不適合責任」を問われ、契約の解除や追完請求、代金減額請求などを受ける場合があります。
さらに、それらの被害があるからといって建物を取り壊し、いったん更地にしてしまうと再建築不可物件※になってしまう場合があるため、注意が必要です。
※雨漏り被害のリスクについては、【「雨漏り被害がある物件」を売却する方法】の記事で説明しています。
※シロアリ被害のリスクについては【「シロアリ被害がある物件」を売却する方法】の記事で説明しています。
※再建築不可物件については【「再建築不可物件」を売却する方法】の記事で説明しています。
市街化調整区域内でも住宅を建て替えられる4つのケース
市街化調整区域は、原則として街づくりを抑え市街化を抑制していく地域のため、原則として自治体から「開発許可」を受けなければ、建物を建て替えることができません。
ただしこの開発許可を受けられる建物は学校や老人ホーム、日用品の店舗などに限られていますので、住宅を建て替えたい場合は、開発許可がいらない以下の4つのケースで考える必要があります。
1.農林漁業を営む者の居住用建築物や分家住宅
農業や漁業、林業を営んでいる人の居住用建築物は、開発許可が不要の建物に当たるため、農家の方や漁師の方であれば、住宅であっても市街化調整区域に建てることができます。
また、農業や漁業、林業を営んでいる本家から分家した人が建てる住宅のことを「分家住宅」といい、この分家住宅も開発許可不要で建てられる場合がありますが、本家・分家ともに一定の条件をクリアする必要があります。
2.デベロッパーが開発許可を受けて開発した分譲宅地
市街化調整区域内でも、デベロッパーがすでに開発許可を受けて開発した分譲宅地であれば、後から購入した一般の人でも家を建てることができます。
周辺は同じような年代の家が建ち並び住宅地が形成されていますので、一見すると市街化調整区域には見えないような環境です。
3.線引き前に建てられた既存住宅
土地および建物の登記事項証明書や、市街化調整区域に線引きされた時点での固定資産税課税証明書などの公的証明書によって、線引き以前から宅地であり、建物が建っていたことが確認できれば、「既存住宅」として、再建築が可能な場合があります。
ただし、制限なく建築できるわけではなく、基本的に次のような要件を満たしたうえで、自治体から「建築許可」を受ける必要があります。
同一の用途(居宅)であること
同一の敷地(敷地の合筆や分筆などをしていない)であること
同一の規模(既存住宅の延べ床面積の1.5倍以内など)であること
4.建築物が連たんしている地域の住宅
市街化調整区域でも、都市計画法第34条11号に定められた立地基準を満たす土地であれば、開発許可申請は必要ですが、家を建てられる可能性は高くなります。
いわゆる「50戸連たん制度」といいますが、土砂災害警戒区域等をはじめとする災害により被害が生じる危険のある区域(災害ハザードエリア)は含まれません。
市街化調整区域内の物件を売却する3つの方法
1.住宅を建て替えられるケースに該当する
前述した「市街化調整区域内でも住宅を建て替えられる4つのケース」の2~4に該当していれば、通常の物件と同じように住宅ローンが利用でき、一般のお客様への売却が可能な場合があります。
2.農林漁業を営む人に売却する
農業や漁業、林業を営んでいる人であれば、市街化調整区域内でも開発許可を受けずに自宅を建てることができるため、購入する可能性があります。
また、地目が「宅地」ではなく「畑」などの農地のまま家が建っている場合は、建物を解体して農地として売却する方法もあります。
ただし、農業従事者はすでに持ち家に住んでいる可能性も高く、新たに住宅を取得する需要の少なさ故に、大幅な値下げが必要となるリスクや、そもそも買主が見つからないというリスクは覚悟しておくべきでしょう。
3.現金購入の方に売却する
現金で購入される方であれば、再建築不可物件のデメリットのひとつである、「住宅ローンが利用できない」という部分が関係ありません。
しかし、三井住友信託銀行による「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)によると、住宅取得者の約8割が住宅ローンを利用しているそうです。
約2割の現金購入客の中から、再建築をするつもりもない、という方が現れれば売却できる可能性があります。
ただし需要の少なさ故に、大幅な値下げが必要となるリスクや、そもそも買主が見つからないというリスクは覚悟しておくべきでしょう。
4.不動産投資家に売却する
不動産投資家は節税のため法人化している方が多く、法人が不動産を購入する際、住宅ローンではなく事業ローンを利用します。
事業ローンは対象となる不動産の内容ではなく、融資を受ける法人の業績をもとに融資の可否を判断します。つまり、物件が再建築不可であるかどうかは関係ありません。
不動産投資家が納得できる利回りが確保できれば、売却できる可能性があります。
ただし需要の少なさ故に、大幅な値下げが必要となるリスクや、そもそも買主が見つからないというリスクは覚悟しておくべきでしょう。
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